誓約(うけい)
誓約(うけい)
誓約(うけい)
「も〜、ひっさしぶりの休暇なんだからこれくらいいいじゃないっ!」
「ってもさ〜、いくらなんでもこれは買いすぎなんじゃ・・・。」
「・・・。」
ギャーギャー喚くアルフィンに、恐る恐る苦言を唱えるリッキー。
それを黙って嫌そーに見ているジョウとタロス。
道行く人々はこの騒々しい4人組を無視しようとするが、いかんせん、何にしても目立つ4人だ。ついつい見入ってしまい、いつの間にか人だかりになってしまっている。
そう。なんて事はない。いつもの休暇前半の光景だ。
今回の休暇は1週間。今日はその初日である。
短い休暇をのんびりしようと、男共3人は寄航したその日に“地獄のお供”と称された(苦笑)アルフィンのショッピングに付き合っているのだ。

「・・・ジョウ。あっしゃ〜、人の視線が痛いです(いつもの事なんだがねー。)」
「・・・言うな、俺もだ。(いつもの事だが。)」
はぁ〜、と溜息を付く2人。
根源の2人はというと。
「も〜、勘弁だよ〜!兄貴もタロスもおいらも、もう一杯一杯だってばぁ〜(泣)」
「んっも〜、だらしないわねーっ。これぐらいで根を上げるなんて、あんた達それでもクラッシャーなのっ!?」
“・・・待て、それとこれは全然、そう、比べるコトが大いに間違ってるってば。。。
・・・3人の心の呟き。勿論、声に出しては言えない。いや、いけない(涙)
それに、これ以上騒ぎになると流石にまずい。
「なぁ、リッキーの言う事にも一理ある。そろそろホテルに引き上げないか?」
ジョウがアルフィンをなだめにかかった。
「そうそう、そうしやしょう。」
タロスもジョウに右習えする。
「えぇ〜っ!?まだ入ってないお店があるのにぃ〜!」
・・・ここの全てのお店に入るつもりなんですか?アルフィン・・・。
そのセリフにげんなりした3人。
「じゃ、あと1件だけ。最後にゆっくり見ようと思って残して置いたお店があるの。ね?」
3人は顔を見合わせて、はぁ〜と溜息を付き、コクンと首を縦に振った。
ルンルン気分で足取りも軽いアルフィン。それとは裏腹に、超ヘビー級に足取りの重い男3人。
偶然というか、必然というか。荷物を持っていないアルフィンと大荷物を抱えているジョウ達3人の間は、何時の間にか広がっていた。
「あ〜あぁ、あーんなに先に行っちゃってるよ、アルフィン。兄貴〜、もうちょっとガツンっって言えないのかよ・・・。」
「・・・お前、あの状況のアルフィンに言えると思ってるのか?」
かーなーり、ゲンナリなジョウ。
「・・・あっしもそう思います。ああなったうちのお姫様は、天下無敵状態でさぁ。。。」
・・・・・・3人はそろって、大きな大きな溜息を吐いた。
そこへ。
「いえ、結構ですから。連れもいるし、かまわないで下さい!」
アルフィンの凛とした声がする。様子がヘンだ。そう思って3人がアルフィンの方へ駆けつけてみると。
「なぁ〜、いいじゃねーかよ。俺達と遊びに行こうぜ。いい場所知ってんだよ。」
「そーそ。連れがいるって、1人で歩いてんじゃん。見え透いたウソなんかつかなくてもいいじゃねーかよ。」
3人の男達に囲まれても、臆することなく毅然としているアルフィン。
「・・・リッキー、そこで荷物番してろ。」
ジョウは近くのベンチに持っていた荷物をどさっと置いた。
「あ〜あ。兄貴、手加減忘れんなよーっ!」
後ろ向きに手をヒラヒラさせながらリッキーに答えるジョウ。
「らっきぃ〜♪休憩、休憩。」
ここぞとばかりに、ベンチに座り込むタロスとリッキーであった。

「そんな、冷たい言い方しないで俺達と遊ぼうよ〜。」
もっと気の効いたセリフはないのか、そこら辺に転がっているようなセリフを言うチンピラ(古)
「・・・さっきから結構ですと言っているはずよ。」
もー、なんてめんどくさい!イラつく!構うな!オーラを出し捲くるアルフィン。
そんなオーラに気付かないドンクサチンピラ達。
「なぁ、そんな事言わずに来いってばっ!」
内1人が乱暴にアルフィンを引き寄せる。・・・無謀である。
「あにすんのよっ!?」
一瞬、引き寄せられたように見えたアルフィンだったが、その力を逆に利用、相手の男を投げ飛ばした。
その状況を、一瞬の後理解した連れの男共。
「んっの〜、なにしやがるっ!?」
先程までのヘラヘラした口調を一変、怒声と共に、アルフィンに掴みかかろうとした。その時。
「何かしてるのは、お前達の方じゃないのか?」
2人の振り上げた手を、ジョウががっちりと止めている。
「ジョウ!」
ぱぁーっと笑顔になるアルフィン。と思ったら。
「もー、ジョウ達がちゃんと付いて来ないからこうなっちゃったのよっ!?」
風雲急転・・・おかんむりになる。
「俺達のせいなのかよ。」
ジョウはムッとする。(当たり前か・・・)
「そーよー。」
さも当たり前の事を言って何が悪いっ!状態のアルフィン。
「あれだけの荷物持ってんだから、しょうがないじゃないか。」
とうとう堪忍袋の尾が切れた模様なジョウ。
「なによ、クラッシュパックより軽いじゃないっ!」
(そういう問題???)
「不安定なんだよっ!」
(不安定?まぁ、確かに。)
・・・いつの間にか別件になっている。しかも、ジョウはナンパ男2人の腕を掴んだままだ。
「こんっの、俺達無視しやがってーっ!」
ジョウの掴んでいた腕が少し緩んだ隙を見て、男2人は反撃に出た。
しかし。
すぐに、1人は地べたとキスする羽目になり、もう1人は。
ガッシャーンっ!
そう。吹っ飛ばされて、近くの店のショーウインドーをぶち破っていた。
「・・・あっちゃ〜。」
タロスとリッキーが同時に言う。
「も〜、ジョウったら、投げ飛ばすんならもっと何も無い場所にしなさいよっ!」
別の場所!?
「しょーがねーじゃねーかっ!片手づつだったんだから!」
そゆ問題っ!?

「こんな事なら、私がさっさと片付けとけば良かったわ!」
・・・延々と続く痴話(!?)喧嘩。
あっちゃー。。。と頭を抱えるタロスとリッキー。
「・・・弁償だよな?」
「・・・弁償だな。」
「誰が?」
「そりゃ、あいつらだろう。」
「・・・逃げたよ。」
「みたいだな。」
ジョウとアルフィンが痴話喧嘩(おいおい)を始めた途端、コレ幸いっ!と、伸びているツレを引き起こしとっとと逃亡。
タロスとリッキーも驚くくらいの素早さで、慣れているとしか思えぬ行動であった。
「じゃ、俺達が弁償すんの?」
「どうなのかねー。」
どこまでも第三者目線。それよりも、2人の怒りに触れないようにと、コソコソと話す2人(こっちの方が切実!!!)
そこへ。
「あの、そこで喧嘩されてる方のお連れ様ですか?」
突然、品の良い老婆から不意に声を掛けられ、ポカンとなるタロスとリッキーに。
「あの?」
と再び声を掛けたのは。
「あの、私。そこの店の者なんですけど・・・。」
少し困ったように微笑む老婆。タロスとリッキーのちぐはぐコンビに物怖じせず話しかけてくるその度胸?恐るべし(爆)
「あ、あぁ、あの〜(汗)<どーしよ〜、タロスっ!」
と、冷や汗をかきまくりながらタロスを見るリッキー。
「あ、は、はい。そうです。あの、申し訳ありません。ショーウィンドーの弁償はしますので・・・」
シドロモドロになりながら答えるタロス。外見と受け答えが見事にミスマッチなタロスに安堵したのか(酷ぇ・・・)
「いえいえ、そうではないんですよ。」
ほっこりと笑う老婆。
「???」
タロスとリッキーは顔を見合わせて頭の上に“?”マークを盛大につけた。


そうこうしていると。ジョウとアルフィンが超不機嫌顔で戻ってきた。
「ジョウ、アルフィン。この方、えっと・・・。」
リッキーが老婆を紹介しようとしたら。
「あの、私。そこの店のロマーヌと申します。どうぞ、宜しく。」
指差された先は、今しがたジョウがナンパ男を投げ飛ばしてショーウィンドーを壊した先。そのお店の人からニッコリ微笑まれて、握手を求められてる。
・・・たら〜り。超不機嫌はどこえやら。自分達がしでかした事を思い出アルフィン。
「マダム、すいません!弁償はきちんとします、ごめんなさいっ!」
青くなりながら、頭を下げるアルフィン。そこへ慌てて駆けてきたジョウ。
「あ、お、俺も廻りを見ずにアイツをふっ飛ばしちまって。すいませんっ!」
平謝りのジョウ。
ところが、ロマーヌは。
「あらあら、いいのよ。あなた達は悪く無いわ。弁償は彼らにしてもらうから。結構やらかしてるのよあの子達。小さい街だから、どこの誰だか分かってるしね。それより、お願いがあるの。」
「お願い?」
話が違う方向へ向いた。途端、リッキーが興味深々にひょこっと顔を出して聞きにまわる。被害が自分に回らぬよう身を潜めていたのだ(笑)
「えぇ。そこのお二人、とても素敵だわ。是非モデルになってもらいたいの。」
ニコニコとロマーヌ。
確かに、アルフィンはそんじゃそこらのモデルには負けない容姿である。
それどころか、銀河連合のトップモデルとも張り合える資質もある。
が、あの立ち回りを見た後にこのセリフが出せる人はあまりいない。
っつーか、ぶっちゃけいない(それにも関わらず、声を掛けたロマーヌ凄しヽ(゚-、゚)ノ
「モデルぅ〜!?なんの?ねー、婆ちゃん、なんのモデルだい?」
初対面なのに、ロマーヌを婆ちゃん扱いするリッキー。失礼極まりない。すかさず。
「こんっの、失礼だろーがっ!!」
ゴツーッン!鉄拳をタロスに決められる。
「ってーなっ!このうすらどてかぼちゃっ!」
「あんだとー!?このちびねずみっ!」
場所をわきまえず喧嘩をしだすのは、チームの特色なのか?ジョウチーム(笑)
「あらあら、喧嘩はいけないわ。仲良くね?ちゃんと説明するから。」
やんわり仲裁に入るロマーヌ。婆ちゃん呼ばわりされたのは、気にしていないようだ。
気が削がれたのか、“ピタっ”と喧嘩を中断するタロスとリッキー。
「立ち話はなんですから、お店にどうぞ?」
4人はロマーヌの店へと促される。
断るに断れず、4人はロマーヌについて行くしかなかった。

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一通り自己紹介をした後。
「さ、どうぞ。お口に合えば良いけど。」
そう言って、ロマーヌが紅茶とスコーンを進める。
「えっと、で、モデルって・・・。」
アルフィンが恐る恐る聞く。
「えぇ、ちょっと無謀かな?と思ったんだけど。声を掛けて良かったわ。このドレスを着て欲しいの。」
そう言ってロマーヌが店のクローゼットから出してきたドレス。
「・・・きぁーっ!、素敵っ!!!」
「・・・」←男3人は絶句。
それは。
純白のウエディングドレス。
「いえね、これを着てくれるモデルさんが居なくて困ってたのよ。そこで、立ち回ってるアルフィンを見つけたわけ。」
ははっ(汗)と、乾いた笑いしか出ない4人。立ち回ってるアルフィンをスカウトする度胸、恐るべし。。。
「でも、私くらいのモデルなんて山ほどいるでしょうに?」
小首を傾げながら問うアルフィン。謙遜である。激しく謙遜である!!!(駄文作者の叫び!)
「いいえ、“私”のイメージに合ったモデルがいなかったのよ。で、“合った”のがアルフィン。あなた。もちろん、少ないけどお給金も支払うし。撮影は急で悪いんだけど明後日なの。良いかしら?」
(ちなみに、ロマーヌご希望なモデルの条件。清楚・豪傑(爆)・きりりとした顔立ち・アンバランスで神秘的な雰囲気の持ち主・鍛え抜かれた肢体の美しさ。・・・厳しいよな(苦笑)
にっこり。極上の笑顔を浮かべるロマーヌ。これにはアルフィンもかなわない。
そして、意を決したのか。
「ご迷惑も掛けてしまったし。いいわ、その件乗らせて頂くわ。でも、お金は頂かない。その素敵なドレスを着させて頂く事が報酬ってことで?」
どう?と言いたげにロマーヌに視線を送る。
「それでは申し訳ないわ。無理にお願いしたのはこちらなのに。」
報酬はいらない。と言われ、少し引くロマーヌ。
「ううん、良い“プレゼント”だわ♪」
しかし、アルフィンの機嫌は最高潮だった。
「プレゼント?アルフィン、何かの記念日?」
不思議に思ったロマーヌは、?な顔をしている。
「そう。そうなの。そこにいる3人は忘れてるようだけど(ギロリ)明後日は私の二十歳の誕生日なの♪」
少しすねてはいるが、ロマーヌの手前、微笑みながら言う。
「あら、素敵!!!おめでとうっ!」
ロマーヌは胸の前で両手を組んだ。そうして、アルフィンと誕生日の話題で盛り上がる。
それを聞いていた3人は。
“・・・ねぇ、憶えてた?”
ツンツンとジョウに肘打ちしながら聞くリッキー。
“・・・・・・・・・・忘れてた。”
だらだら冷や汗を流すジョウ。
2人の会話を聞いていたタロスは、あっちゃぁ〜。と両手で顔面を覆う。
“で、ど〜すんだよっ!?幸い誕生日は明後日だぜ。今からでもプレゼントとケーキくらいは用意できんぢゃん。”
“・・・・・そ、そうだな。”
“そーだなって、他人事じゃねぇーんだぜ!?どっちかってーと、兄貴に来るとばっちりの方がデカイとおいらは思うんだけど。”
“ほっとけ。”
内緒話になってるような、なってないような会話をするジョウとリッキー。
“・・・本気(マヂ)でなんかせんと、マズイですぜ?”
助け舟のつもりがまったく助けてないコトを言うタロス。
“・・・じゃ、なんとかアルフィンを此処に留めておいて、その隙に準備せんとな。”
“それなら任せてよ。”
リッキーが一つ胸を叩く。
「ねぇ、婆ちゃん。」
いきなりロマーヌに話しかけるリッキー。
アルフィンとのお喋りに夢中になっていたロマーヌは少し驚いたようにリッキーに答える。
「あら、ビックリした。なぁに?リッキー。」
「あのさ、撮影は明後日だけど、アルフィンにドレスの試着とかさせなくていいのかい?細かいサイズ直しとかさ。あと、小物なんかも用意しないといけないんでない?」
「あら、男の子なのに気が利くわね。そうね、いろいろ合わせてみた方がいいわね。時間は良い?アルフィン。」
「えぇ、私は構わないわ。」
久しぶりに女性同士、大好きなファッション関係の話をしていた姫のご機嫌は良いようである。
「じゃ、おいら達はいてもジャマだからさ。荷物を一旦ホテルに持って帰るよ。」
ここら辺、リッキーは言葉巧みである(笑)
「そう?じゃ、お願いv」
なんの疑いもなく、アルフィンは了承する。
「それじゃ、行きましょうぜ。」
かーなーりーほっとした様子のタロス。(笑)
「じゃ、また後でな、アルフィン。」
タロスとリッキーはロマーヌにお茶のお礼を言い、大荷物を持って、そそくさと店を出て行った。
「・・・いいのか?1人でも。」
少し気になったジョウが声を掛ける。
「あら。子供じゃないのよ?それに、迎えに来てくれるんでしょ?待ってるから。」
ニッコリ。極上の微笑みを見せられては。
「分った。じゃ、後でな。」
ジョウは、こう答えるしかなかった。

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ホテルに大荷物を置いて、再び街へ戻ってきた3人は。
「プレゼントってもな〜。兄貴にタロスは何にするつもりなんだい?」
「ってもな、今日あれだけ買い物してんだぜ?これ以上あの船室に何が入るってんだ?」
「・・・あっしもそう思います。」
宇宙船には質量制限がある。ある程度の誤差は組み込んでいるが、この数値を正確に測定しておかないと運行に支障が出る。
アルフィンは船室以外に自分専用のコンテナを持っており、バカンスの度に増える荷物は、古いものや飽きたものからそのコンテナに収容され、次の寄港地でリサイクルに回される。
気に入ったものは、そこから別梱包され、アラミスに借りているセーフハウスへと送られる。
一応、整理はしているようなのであるが、つい最近コンテナをもう一基増やしてくれと進言があったのはクルーの記憶に新しい。
「〜ッ!何言ってんだよ、2人共。それを考えてるんじゃないかよ。何も、“物”じゃなくてもいいんだろ?」
その言葉にピンッ!ときたタロス。
「・・・ちょっと来い。」
タロスはリッキーだけを引きずって。唖然とするジョウを残して街路樹の陰に隠れる。
「おい。アルフィンはウエディングドレスのモデルをするんだよな?」
「そーだよ?タロスも聞いてたじゃん。」
「花嫁の横には花婿がいるよな。ロマーヌも“そこのお2人”と言ったな?」
「当たり前じゃんっ!な〜に当たり前なコトばっか言って・・・。あっ!!!」
鈍感なジョウと違い(爆)リッキーはそーゆー事には聡い(笑)
「そーそ。そ〜ゆ〜コト。お前、ロマーヌの店行って段取りつけて来い。もちろん、アルフィンには内緒だ。多分2人共、気付いてないから。」
「あれ?兄貴にも内緒なの?」
「・・・ジョウは照れ屋だ。当日に言って、無理やりだが“本物の花婿”になって貰う。」
「タロスにしちゃナイスなアイディアじゃないか!」
「ま、たまにはな。」
ふふんっと、鼻を鳴らすタロス。
「じゃ、おいら先に行くよ。兄貴にはなんとかごまかしといてな!」
くるっときびすを返して、リッキーは走り出した。
「おい、リッキーは何処に行くんだ?」
タロスとリッキーがコソコソしてるのに痺れを切らしたジョウがタロスの真後ろに立っていた。
「( ̄Д ̄;)!?い、いえ。プレゼントを思いついたとかで、いきなり走り出しまして。」
驚いたタロス。しかし、しどろもどろになりつつもなんとか答える。
「なんだよ。抜け駆けする気か?」
憮然とするジョウ。
「ま、まぁまぁ。あっしが良いプレゼントを思いつきましたから。」
「なんなんだ?それ。」
少し不機嫌になったジョウをなだめるように。
「早速、店に行きましょうや。」
タロスは、少しヒヤヒヤしながらジョウを促した。

タロスは道中にあった小洒落たジュエリーショップを思い出していた。
そこは、アルフィンが“最後にゆっくり見るの♪”と向かっていたショップであった。
結局、ゴタゴタに巻き込まれ、その店には行かず仕舞いのままである。
四〜五分も歩いたであろうか。
「ここでさぁ。」
小さいながらも、センスの良い宝飾品が嫌味なくデスプレイされている。
「で?ここで何を買うつもりだ?」
当たり前だが、ジョウにこういったものを選ぶセンスはない!(断言!<酷ヽ(゚-、゚)ノ )
「アルフィンも年頃の女性じゃないですかい。やっぱり節目の誕生日だし、ここは記念になるものを贈っても良いんでないかと。」
流石年の功。女性の扱いも昔とった杵柄。タロスの言葉には説得力があった!!!(笑)
ふーむと少々考え込むジョウ。しかし先にも解説したが、こういう事にはからっきしだ。
唸ってばかりのジョウ。
「あ、あの。どういった品をお探しでしょうか?」
フランケンシュタインみたいな怪物(こらこら)と、モデルばりのルックスを持った青年の違和感まる出しな二人連れ。声を掛けるのも怖かっただろう。(笑)しかし、商品を見ている=お客。接客しない訳にはいかない。初老の店員は、勇気を振り絞って声を掛けた。
「いや、ウチのお嬢さんの二十歳の誕生日なんだが、どういったモノが良いのかさっぱりでね。」
にかっ!と笑ってタロスが答える。
店員は一瞬ビクッ!としたが、見かけより紳士的なタロスに安心したのか色々と質問してきた。色、形、指輪かネックレスかブローチか。
タロスが答えている間に、ジョウはショーケースの中を見て廻っていた。
“なんで女ってヤツはこんなモンが良いのかね。”
そんなコトを考えながら、それでもアルフィンのイメージに合う品を物色する。
「・・・あっ。」
ジョウの目が、一つの品の上に釘付けになった。
どれくらい見入っていたのだろう。
「お出ししましょうか?」
最初とは打って変わった対応の店員。(笑)タロスも“ほぉ〜。”っと、ジョウの選んだ物を見て感心した様子である。
「こちら、なかなか珍しい一品です。如何でしょう?」
そう言って、店員が取り出したのは、光線の加減・見る角度で色が変化する小さな石が付いたリング。
確かにぱっとした見栄えは無いが、とても品が良い。アルフィンにとても似合いそうであった。
「いかにも。と言う品ではありませんが、とても良いものです。結構貴重な石なんですよ。それにデザイン的に長くお使い頂ける品です。お客様、初めてと仰ってましたがどうして、どうして。なかなか良い目をお持ちですね。」
本当に感心した様子で店員がジョウを見る。
「・・・い、いや、その・・・。」
こんな褒められ方をした事の無いジョウ。ただ、アルフィンに似合いそうだと思った品を見つけた。それだけなのだが。(まぐれだ、まぐれヽ(゚-、゚)ノ )
「ジョウ、これに決めますかい?」
赤くなったり、蒼くなったりしているジョウに、助け舟を出すタロス。
「あ、あぁ。そ、それを貰う。」
少し上ずった声で店員に声を掛けるジョウ。
店員は満面の笑みを湛えて、
「プレゼントで宜しいですね?ちなみにこの石には、“久遠の幸せ”という石言葉があるんですよ。そして、もう一つ。“愛しのWildfang”って言う“隠し石言葉”もあるんです。面白いでしょ?」
ニコニコ笑いながら、店員が石の説明をする。
「ほぉ。ぴったりじゃないですかい、ジョウ。」
くっくっくっと、笑いを押し殺すがどうしても漏れでてしまうタロス。
「・・・確かにぴったりだが・・・。バレたら殺されるぞ!?」
なんともいえない顔でリングを見つめるジョウ。
「でも、“愛しの”ってのがくっ付いてますから、許してくれるんじゃないですかい?」
更に笑いを堪えるハメに陥ったタロス。
「あ、愛しの・・・。ねぇ。」
心なしか、顔を赤らめるジョウ。そこへ店主が、
「隠し言葉の謂れは、光線の加減・見る角度で、色が変るとこからきているんです。くるくると表情の変る“はねっかえり〜Wildfang〜”にぴったりでしょう?」

にっこりと笑顔を向ける店主に。
「ぴったり過ぎるっ!」
堪え切れなくなったタロスが、爆笑した。
「確かにな。機嫌がくるくる変るアルフィンにぴったりだよ。」
ジョウもつられて苦笑する。
店員と三人で、ひとしきり笑った後。
「じゃ、それをくれ。えっと、プレゼント用にして貰えるかな?指のサイズは確か俺の小指のサイズだと思うんだが。」
少し照れくさそうに、店員に注文するジョウ。
「はい。ありがとうございます。あなたの小指のサイズは。。。」
店主はジョウの小指のサイズを測り
「あぁ、八号ですね。このリングのサイズ、丁度ですよ。」
満面の笑みを浮かべて答えた。

その頃リッキーは。
・・・何もしていなかった。では語弊がある。何も出来ていなかった。が正解である。
ドレスの試着・直し。ヴェールの合わせに、ブーケは生花の方が。ピアスはどれ、手袋はシルクかレースか。髪飾りは、花をあしらった物、真珠の飾りか?
またはティアラにするか。
リッキーがここへ戻って来た時には、流石にドレスの試着と直しは終わっていたが、合わせる小物類をとっかえひっかえし、盛り上がっているロマーヌとアルフィンが居た。
もちろん、机の上・ソファー・床の敷物の上と、ありとあらゆる場所に、ベールやら髪飾り、ピアスにティアラが置かれている。
リッキーはなんとか小物類を避け、部屋の隅に縮こまっていた。
そう。ヘタな事を言うより、黙って2人を見ている方が自らの安全の為と理解していたのだ。(うぅ。偉くなったぞ、リッキー。(涙)
どれくらいそうしていただろう。
「ちょっと、リッキー。」
お呼びが掛かる。ビクーっ!
「あ、はっはいっ!?」
「何よー。そんなにビクついちゃって。ねぇ、どぉ?」
ひらり。そこには、真っ白な大輪の華が舞っていた。マトモに正面から見たのは、今が始めてである。
見惚れるリッキー。かなりの間抜けズラをしていたのだろうか。
「ちょっと何よ。何とか言いなさいよ。」
リアクションのないリッキーに、ムスっとしたアルフィンは睨みを利かせた。
しかし、リッキーの口をついて出た言葉はアルフィンの思考の斜め上だった。
「・・・綺麗だ。」
ぼーっとしたまま、思溜息をつくように答えたリッキー。
「あ、あら。珍しく嬉しいコト言ってくれるじゃない。」
何時もと違うリッキーに、シドロモドロになるアルフィン。
「ねぇ、リッキーもそう思うでしょ?」
ニッコリと微笑みかけるロマーヌに。
「う、うん。マヂ、すげー綺麗だよ。見違えちまったよ。」
力説するリッキー。でもこれはお世辞でなく、本当にそう思ったのだ。
「ま、まぁ。ありがとう。。。」
何か、調子ずれちゃう。こんなに正直なのって、何時以来かしら。と、アルフィンはしどろもどろに答えた。
そんな2人の会話はアウトオブ眼中なロマーヌ。
「でね、リッキー。男の子から見て、このティアラとこっちのティアラ、白百合の髪飾りと、白薔薇の髪飾りって、どれが一番アルフィンに似合うと思う?」
・・・とんでもない難問をリッキーに投げかける。
「う、えっ!?な、何が???」
オロオロ答えるリッキー。
「だーかーらー、この・・・・・・・・・」
延々と続くロマーヌの質問。リッキーは「はぁ。」「うん。」「えっと、こ、こっちかな???」と、アルフィンから見ても涙ぐましい努力を続けていた。
その間、2時間。(爆笑)
“うわーっんっ!!!お、おいら、もう限界だよーっ!兄貴ぃ〜、タロスぅ〜、早く来てくれよーーーーーーーーーーーーーっ!”(リッキー心の絶叫)
今にも逃げ出さんばかりのリッキーの耳に、神降臨の音が。
カラン・・・。ドアベルの音と共に、神様2人登場。(爆)
「待たせたな。あれ、リッキー。どうしたんだ?」
ジョウとタロスが見たのは、小物類の中でグッタリと、今にも死にそうな顔をしているリッキー。
喜々として、“これは?”“ねぇ、コレとコレは?”と、リッキーに髪飾りやネックレスなどを選ばせているロマーヌ。
その様子を、笑いを堪えるようにして見物しているアルフィン。
リッキーとロマーヌを見たまでは良かった。が、視線をアルフィンに移したジョウとタロスは固まった。
そう。あまりのアルフィンの“豹変”ぶりに。
「ア、アルフィン?」
タロスがなんとか声を出す。ジョウは固まったままだ。そこへ。
「タ、タロスぅ〜、兄貴ぃ〜、助けて〜!(涙)」
なんとも情けない声に、ハッとするジョウ。
「まぁ。ただ選んでもらってるだけじゃない。情けない声出さないのっ!」
ロマーヌ、全く意に関せず。(爆)
「ロ、ロマーヌ。ちょっとばかし、リッキー借りても良いですかい?(汗)」
あまりの惨状。タロスにはそう見えた。いや、ジョウにもそう見えた。
そうでないのは、ロマーヌ唯一人。アルフィンでさえ、口を挟めない状況だったのだ。(実は・・・流石に可哀相になって口を挟もうとすること幾数度。ことごとく失敗していたのだ。アルフィンがっ!!!(驚)
そこへジョウとタロスがやって来た。雰囲気がガラっと変ったので、ロマーヌも周りを少しだけ(ほんの少しっ!(苦笑)見たのだ。それで初めて、リッキーの声を聞いたのだ。(選んでるときは“その事だけっ!”聞いていた。)
「あ、えぇ。あら、もうこんな時間っ!?」
時計は既に、午後八時を指していた。
「あらあら。家族に食事を作りに帰らなきゃ。あまりに楽しかったのでつい、時間を忘れちゃったわ。」
ロマーヌのその言葉を聞き、リッキーは安堵の溜息を思いっきりこぼした。
“すまなかったな。随分大変だったみたいだが・・・。”
“何言ってんだよっ!?随分どころか、死ぬ思いだったぜっ!!!???”
“まぁ、そう言うな。お前が自分からこっちへ行く。ってじゃないか。”
“違―うっ!おいらはタロスの案に乗っただけだいっ!!!”
“そうだったか?”
“あぁもーっ!兄貴までそんな事言うっ!?(涙)”
ボソボソボソ。男3人集まって文殊の知恵でなく、文句を言い捲くる(笑)
「なーにナイショ話してんのよっ!?」
自分をほったらかされたと思ったらしいアルフィン。機嫌は急降下。
「アルフィン。悪いんだけど、今日はここまでにして貰えるかしら?」
すまなさそうに言うロマーヌ。
「あ、えぇ。こちらこそ長居してごめんなさい。」
慌てて答えるアルフィン。(笑)
「申し訳ないついでに、明日も打ち合わせに参加して下さるかしら?」
ここでロマーヌ、助け舟を出す。(もちろん、無意識(笑)
「えぇ。もちろんよ。明日は何時に伺えば良いかしら?」
「そうね。ランチをご一緒ってのはどう?正午頃にお願いできるかしら?もちろん、あなた達も一緒に♪」
ニコニコしながら男衆3人を見るロマーヌ。(爆)そこには、断るに断りきれない雰囲気がかもし出されている。引きつる男達。そして答えは勿論。(核爆)
「はい。ご一緒させて頂きます(倒)」
その答えにご満悦になったロマーヌ(笑)
「それじゃ私、急いで帰らなきゃいけないから、戸締りをお願いして良いかしら?」
こらこら。。。初対面のメンツに戸締り頼んで良いのかロマーヌヽ(゚-、゚)ノ
「あら、でもロマーヌが困るんじゃ。」
流石に驚くアルフィン(いや、誰でも驚くヽ(゚-、゚)ノ )
「私は合鍵があるから良いの。お願いできる?」
・・・そーゆー問題かっ!?ヽ(゚-、゚)ノ ヽ(゚-、゚)ノヽ(゚-、゚)ノ
「え、えぇ。お安い御用よ。」
良いのかしら?と、ちょっぴり引きつりながら、アルフィンはロマーヌから鍵預かる。
「それじゃ、申し訳ないけど。お先に失礼させて頂くわ。」
ごめんなさいね。と言いながら、少し急ぎ足でロマーヌは店を後にして行った。
暫く固まっていた4人。
「ふ。。。ふぁ〜っ!」
盛大に溜息を付いたのはリッキー。
「・・・すげぇ、ばー様ですな。」
苦笑いなタロス。
「・・・・・・・・・・。」
言葉にならないジョウ。(まぁ、アルフィンの姿に度肝を抜かれてそれどころでないらしい)
「まぁ。そんな事言っちゃ失礼でしょ?でも、えらく信用してくれちゃって。私達だから良いようなものの、明日にでも無用心すぎるわと諭さないと。」
クスクスと笑うアルフィン。
「さ。私たちも帰りましょ。直ぐに着替えるから待ってて。」
ドレスの裾を両手で抱え、くるりと背を向けると、フッティングルームに消えていく。
背中が大きく開いて、清楚なんだけど艶かしい。いや、逆か?誘うような背中だが、手を出せない荘厳さがある。いや、背徳感の勝利か?
ブツブツブツ。ジョウの妄想暴走中。(苦笑)
「兄貴。何独り言言ってんの?」
気が付くと、リッキーが不思議そうに顔を覗いていた。
「あ。いや。。。」
ブツブツブツ。。。(妄想爆裂中・・・)
「タロス。」
「何だ?」
「兄貴、ヘンでないかい?」
「しょうがないんじゃないか?」
流石年の功。そしてジョウの育ての親。タロスはジョウが気の毒でならなかった(爆)
「何で?」
もちろん、リッキーにそれが判ろう筈もない。もしかしたら、知識は勿論だが、経験値すらジョウより上かもしれないが、だからこそな状況を思いつかないのだろう。
「色々大変なんだよ。」
はぁ。。。大きな溜息が出る。ジョウが哀れで(笑)
「何が?」
グリグリ目を更にグリグリ大きくしたリッキー。
「お子様には分らん。」
一応決まり文句なので言ってみる(おひっ)
「なんでぇ。そんな言い方ないんでないかっ!?」
もちろん、ムカッときたリッキー。
「うっせーな。お前には100万年早いんだよ。」
「何〜!?」
今にも取っ組み合いのコミニュケーション(笑)が始まろうとしたその時。
「・・・あんた達。」
怒りを堪えたアルフィンの声。着替えを済ませ、ドレスを両手に持っている。
『ひぃっ!?』
アルフィンの姿を視認した途端、ソレまでの勢いは何処へやら。タロスとリッキーは蒼くなりながら仲良く後ずさる。
「分ってるんでしょうね?」
ドスの効いた声。もの凄く恐ろしい。(爆)ドレスを持っているため、手は出ない。不幸中の幸い。(核爆)
『は、はいっ!』
直立不動な2人。(笑)
「よろしい。ジョウっ!」

「あ、な、なんだ?」
アルフィンに名を呼ばれて“あっち”の世界から、ようやく戻って来たらしいジョウ(笑)
「このドレス、そこのクローゼットにかけてくれる?」
大事そうに両手で渡される先程までアルフィンが身に着ていたウエディングドレス。
「あぁ。分った。」
ほんのりと。アルフィンの温もりと香りが残っていて、また“あっち”へ行きそうになるが(笑)なんとか踏みとどまり丁寧にクローゼットに納める。
「さあ。ディナーに行きましょうか?これ以上不愉快にさせないでね。お酒が不味くなるから。」

「あ、あのぉ〜。お酒、飲むの?」
アルフィンの最後の言葉に反応したリッキー。よせば良いのに、要らない事を言ってしまう。
「あら?いけない?」
ギロリ。リッキーはメデューサに睨まれた哀れな子羊と化す。(苦笑)
「い、いえ。。。ナンデモアリマセン。」
ひぃっ!と声にならない悲鳴を上げつつ、タロスの後ろに隠れる。(情けない。でもシカタナイ(滝涙)
「でもさ、明日は正午に此処へ来るんだろ?夜更かしは良くないんでないでないか?」
タロスが遠慮気味に問う。
「あら、そうね。まぁ、シンデレラにならないようにホテルに帰れれば良いわ。」
少し考えたようだが、“皆と一緒にお酒”はなくならなかったようだ。
「・・・少しにしとけよ。」
はぁ。と小さな溜息を付きながらジョウが言う。
「わかってるわよ〜。飲みすぎると浮腫んじゃって大変だもの。」
流石にモデルの話を受けた事は忘れていない。気にはしているようだ。
これにはタロスとリッキー、大いに安堵した模様。(笑)
「じゃ、行こうぜっ!おいら、腹ペコペコだよ〜!」
緊張が解けた途端、こうである。現金なリッキー。(爆)
「そうだな。何にしますかい?」
流石にここでちょっかい出すのは得策でないのをタロスはよーく知っている。(苦笑)姫のご機嫌を損なわないように、食事のネタを振る。
「そうね〜。皆は何が食べたい?」
うーん。と、人差し指を口元に充て、思案するアルフィン。
「そうだな。ここの名物はなんだっけ?」
「おいら、肉―w」
「あっしゃー、旨い魚が良いですなぁ。」
思い思いわいわいと慌しく、そして慌しくも戸締りはきっちりとして(此処大事(笑)ロマーヌの店を後にする四人であった。


翌日のランチ。
「そーなんだよ!ひっでーんだぜ?」
バンバン!机を叩くリッキー。
「あらあらまぁまぁw」
微笑むロマーヌ。
何故か、リッキーの愚痴を延々と何故か嫌がらず、それどころか喜んで聞いているロマーヌ。
ヘタに突っ込みを入れようものなら、
「あら。そんな事言っちゃダメよ?」
と、ロマーヌからやんわり「あんた達は黙ってなさい♪」と、反論を許されないのである。なんと、アルフィンでさえ!!!(驚愕!)
そう。何故か妙な展開になっているのだ。
なので、残りの三人は、モクモクと食事をするしかないのである。
「ちょっと。どうしてこんな事になってんの?」
ロマーヌの手前、あからさまな態度には出れないアルフィンが押し殺した声でジョウとタロスを睨む。
『・・・俺等に聞くな。。。っつか、睨まないでくれっ(涙)』
そんな拷問?のような時間が一時間程経っただろうか(苦笑)
「あー!ごっつぉーさまっ!うまかったぁー!!!」
満足そうに、パンパンになった腹をなでさすりながらニコニコとロマーヌに礼を言うリッキー。
「おそまつさま♪私こそ、とっても楽しかったわwなかなか会えない孫と話しているみたいでねぇ。ありがとう、リッキー♪」
「かまわないよ!とろこで、その孫さんの年を聞いてなかったな。幾つなんだい?」
・・聞かなくて良い事を聞くリッキー。
「えっと、次の誕生日で十二だったかしら?もぉ、リッキーみたいにちっちゃくて(ちょっ・・・)何時もじっとしてなくて、とっても可愛いのよ!」
ぶぶぶふっ・・・
悪いと思いながら、それでも必死に笑いを堪えて。堪えたのだが漏れ出るものはしょうがない。それが三人分だから、流石に気付かれぬはずはなく。
「あら?そう言えばリッキーって幾つなの?」
孫の年齢を聞いた途端に石になったリッキーの代わりに三人が声を揃えて
『十八です!』
と、答え、我慢の限界を越えて大爆笑してしまったのはしょうがないと思う(笑)

「リッキー、ごめんなさいね?お仕事している割にはスレてなかったから。」
・・・人を見る目はイマイチであるロマーヌ(苦笑)
「・・・もぉいいよ。気にしてねぇよ。まぁ、ちょいちょい言われてるし。うーん。まじめにカルシュウムとらないとそろそろヤバイかなぁ。。。」
おひっ!気にしてるじゃないか(爆)
「ほら、男は二十五くらいまで身長伸びるってゆーぢゃん!」
自分に言い聞かせるように、ブツブツ言い出すリッキー(苦笑)
ロマーヌはそんなリッキーを瞬時に放置決定(酷)思い出したようにジョウに話を振る。
「あぁ、昨日はアルフィンの合わせに夢中になってて、ジョウの合わせをしてなかったのよ。今からお願いできるかしら?」
「あ、あぁ。。。」
“二人で・・・”と、言われていたのをふと思い出したジョウ。
そう言えば、俺もセットだった・・・アルフィンさえ合わせれば、自分は適当にチャチャっと済むと思い込んでいたというか、自分もモデルにってのをすっかり忘れてた。。。引きつりながらもなんとか返事だけはしたジョウ。
「あら、男性はそんなにかからないわよ?女性の方が諸々決まりさえすればね。小物も女性に合わせれば良いんだし。」
「そ、そうなんですか。なら安心・・・かな?」
ほっとしたのはその瞬間だけ。
「とは言っても、ちょっとは時間取っちゃうから、タロスとリッキーは無理して付き合わなくて良いわよ?あたしが付き合うからw」
優雅にティーカップを傾けながらアルフィンが言う。
ならば!と二人は。
『じゃぁ、アルフィンよろしく!ジョウ、お先に失礼!!!ロマーヌ、ご馳走様でした!』
と、言うが早いか。見事な駆け足でその場を去っていった。素晴らしい連携?である(爆)
そして。嫌な予感は当たるもので。
ジョウはそれから半日に渡り拘束されたのであった(なむー(苦笑)

撮影当日。
幾分ぐったり感が否めないジョウ(笑)と、ご機嫌麗しいアルフィン(爆)
タロスとリッキーは、自分の事ではないので至って安気(おーい)
「じゃぁ、アルフィンとジョウは着替えをお願い。私はアルフィンにつくから、コレット、ジョウの方をお願い。」
「えぇ、分かったわママ。でも、よくこんな上玉拾ってきたわね!!!」
デザイナー兼カメラマンを兼ねるコレットは、ロマーヌの上の娘だと先程紹介された。ロマーヌとこの店を切り盛りしているらしい。アルフィンの着るドレスの殆どを彼女がデザインし、仕上げをロマーヌがしたと言う。
「もー、私が仕入れに出かけてる間に気が付けば勝手に段取り決めちゃってくれてるし。ママ、何気に強引でしょ?ごめんなさいね?」
苦笑しながらあったばかりのジョウを気の毒そうに見る。
「あ、あぁ。。。」
こちらも苦笑いで返すジョウ。だが、元々の原因が原因なのでそれ以上は何も言えない(倒)
とりあえず、昨日半日も直しに掛かった衣装に袖を通す。
着替え終わり、コレットに指示されたドレッサーの前に座る。
手入れをまったくしていないジョウのボサボサ頭をコレットが自分のイメージに合うよう「変形」させていく(爆)
「でも、彼女本当に綺麗ね!本当にモデルじゃないの?立ち振る舞いが普通じゃないわよ?」
なかなか鋭い。流石ロマーヌの娘(笑)
「私、ギャラクシーネットワークで企画放送されてる王族の番組が好きでね。ほら、デザインの刺激になるし。そこでなんとなく観た事があるような気がするのよねぇ。モデルじゃないなら、そっちかと思うんだけど。」
「あぁ、アルフィンは元ピザンの王女だ。」
別に隠す必要性もない。しかし、随分久しぶりに聞かれたなぁ。と、懐かしくさえ思うこの質問。
「えぇぇぇぇぇっ!?本当に!?冗談抜きで!?ピザンと言えばほら、連帯惑星で何年か前にクーデターがあったって言う!?」
・・詳しいなコレット(苦笑)
「わりと近い星系だから、こっちでも結構ニュースになってたのよ?と言うと、ハルマン国王の一人娘なの?本当に!?」
「・・・く、詳しいな。本当だ。成り行きでうちのメンバーになって現在に至る。だ。」
「あらー。そんな事言っちゃって。成り行きで駆け落ちはできないでしょー♪」
ぶっ・・・
「ちょっ!?か、駆け落ちじゃない!押しかけだ!!!」
あわあわと何故か訂正をするジョウ。
「・・・どんなニュースが流れてたんだよ、この星。。。」
ジョウが盛大に吹いたり青くなったりしている間にも、コレットはちゃんと仕事をして(笑)
「もー、照れちゃって。このこのwよし。ほら、出来たわよ!ほらほら。スタジオに移動して!」
自己完結して上機嫌なコレットに、これ以上何を言っても火に油を注ぐだけだと見抜いたジョウは。
「はいはい。。。。」
と、盛大に溜息を吐いてスタジオに向かった。

「ちょっとタロス。質問良いかな?」
何故か黒のタキシードにネクタイな正装をさせられているリッキー。
しかし、よくサイズがあったな!(そこか!?)
「おお。俺からの質問も良いか?」
こちらは何故か牧師の衣装を着せられている。
こっちも、よくサイズがあったな!いや、この場合衣装か?
『何故俺達、こんな格好させられた!?』
こちらの二人。ジョウとアルフィンがそれぞれ着替えに連れて行かれた後。
ロマーヌがひょいっと戻って来て
「あなた達は、これに着替えてスタジオに来てね。なんせ、人員不足なの。宜しくねw」
と、有無を言わさず置いていったのが、現在二人が身につけているもの。
まぁ、色々と連帯責任だから文句は言えない。
こうして、準備万端?整い、場所はスタジオ。
簡素だが、それらしい品のある祭壇。背景は投影式でシーン事に変えられるという。
今は式用の背景が映し出されている。
ジョウとコレットが先に入っていて、立ち居地や待ちのポーズの注文をあれこれ受けていた。
『ジョウ・・・』
なんとも複雑な声色で二人が声を掛けると。
「お、来たかって、お前等・・・」
ほっとした表情も束の間。二人の姿を見て絶句するジョウ。
「・・・何も言わないで下だせぇ。人員不足なんだそうで。」
はぁぁぁぁ。と、大きな溜息を吐くタロス。
「・・・間違っても、七五三とか言わないでよ兄貴。っつか、なんで同じタキシードなのに、着る人間が違うとこうもっ。。。うっ。(涙)」
こちらは既に開き直ったのか、自分でダメ出しするリッキー。
「リッキーは黒か。オレはアルフィンに併せたから・・・そうか。あぁ、何も言わない。人の事は言えないからな。」
男三人、なんとも情けない表情でお互いを見回す。
「何よ、辛気臭いわね!シャンとしなさいっ!?」
どんよりした空気になったスタジオに、ナイスなタイミングで喝を入れる凛とした声。
先日の衣装合わせでその姿を見ているはずなのに。
確かに今日は本番で。
式前なのでベールで顔を覆い、うっすらとしかその表情を見て取れないのに。
それでも。そう。それでも。
なんて綺麗な。どんな風に表現したら良いのか三人には思いつかず。
ただただ、ぼぉっとしてアルフィンを凝視する。
「あらあら。男性陣ったら、アルフィンの美しさに釘付けねw」
ふふふふふっ。と、ロマーヌ。
「母さん、そりゃ仕方ないわ!私でさえ見惚れたくらいよ。凄いわぁ!アルフィン、今の仕事が嫌になったら、何時でもうちにきて!専属の事務所になって、どどーん!と売り出してあげるわよ!!!」
興奮したコレットが、一気に畳み込む。
「あ、ありがとうコレット。その時にはお願いねw」
ちょっと引き気味にアルフィンが答える。
「さぁ、さっさと撮影に入るわよ!タロス、祭壇についてちょうだい。リッキーはちょっと小さいけど(おいおい)花嫁の介添え役をお願いね。コレット、撮影準備は出来てるでしょうね?OK?じゃ、撮影開始よ!」
ロマーヌの一喝で、怒涛の撮影が始まった。

「はい、お疲れ様!皆、ありがとう!とても素敵な撮影になったわ!」
ロマーヌとコレットは大満足顔でジョウ達の労をねぎらった。
普段慣れないとは言え、そこそこモデル慣れしているアルフィンですらぐったりしている。体力自慢のクラッシャーだが、違う方向への気遣いと緊張で精神的に疲弊してしまったらしい(笑)
「この後、食事でもと思ったけど全員お疲れみたいね。打ち上げは後日にしましょう。今日はコレットと編集作業にするわ。お疲れ様www」
ニコニコと上機嫌なロマーヌ。コレットは興奮気味に編集作業の真っ最中。こちらの事は既に眼中にないらしい。
『お、お疲れ様・・・』
力なく四人は答え、なんとか着替えを済ませるとそそくさとホテルへと引き上げた。


後日、編集が終わり出来を観てくれと連絡を受けた四人が揃ってロマーヌの店を訪ねた。
「良く来てくれたわね!自信作よ!もー、撮った自分でうっとりしちゃったわ!」
扉を開けた途端、コレットの絶叫で迎え入れられちょっと驚く四人。
「あらあら、コレットったら。でも、あの出来は私も絶賛だわ!あなた達も驚くと思うわよ?早速スタジオで試写を見て頂戴?」
これまた、ニコニコしながら奥からロマーヌが手招きをする。
今日のスタジオには、アフタヌーンティーがセットされていて、ちょっとしたティーパーティー様式になっていた。
「さぁ、皆座って!しっかり食べて飲んで感想を聞かせて頂戴♪」
料理にも、映像にもかなりの自信があるのだろう。既に上機嫌なロマーヌ親子。
「そんなに素敵な出来なの?ちょっと楽しみね?」
席に座りながら、アルフィンがジョウを見る。
「うーん。俺はひたすら指示通りに動いてた記憶しかねぇぞ。。。」
はぁ。。。と、一つ大きな溜息を吐くジョウ。あれしろこれしろ。と、とにかく指示が矢継ぎ早に飛んできたので、それをこなすので静一杯だったらしい。
「そうかい?イカシタ新郎様だったぜ?」
へへへwと、こちらは既にサンドイッチを口元に持ってきているリッキー。
「あっしゃぁ、着慣れないもんとセリフを言うのに必死でしたぜ。」
タロスは優雅に?淹れられた紅茶を飲んでいる。終わった事は振り返らない事にしているらしい。
「さぁ!上映開始よ!!!」
コレットの雄叫びと共に、スタジオは暗転した。

映し出されたのはステンドグラスの美しい小さな教会。
祭壇に居るのは、神父にはどうあっても見えないが、神父の衣装を身に着けたタロス。
その前には、アルフィンのドレスに合わせたタキシードに身を包み、前髪をオールバックにしたジョウ。
柔らかな音楽が流れていたが、一瞬の後にウエディング協奏曲が。
扉が開き、介添え役のリッキーに導かれ、花嫁登場。
一歩一歩祭壇に近づき、リッキーからジョウへエスコートが変わる。
花嫁と花婿が祭壇に向き直り誓いの言葉を。
ここまでは、何時とお決まりのCM。中身の人間が入れ替わっただけな感じである。(人間のインパクトのレベルは随分違うが)
実は、ここからがコレットの腕の見せ所だった。
途中途中、休憩を挟みながら撮影だった。もぉしつこいくらいに色々なシーンと称して、カメラを意識の外に追いやるくらいに注文を付けた。
そんな膨大な映像の中に、自然でぐっとくるシーンは隠れいてたりする(笑)
指輪の交換が終わり、誓いの口付けのシーン。
ここは特に気の遠くなるくらいリテイクされた。
アルフィンでさえ、音をあげそうになったくらいだ。
そんな中の奇跡!のワンカット。
ジョウがアルフィンのベールを上げ耳元で何か呟いていた。
普段でさえ、そんな微笑を浮かべる事なぞないように柔らかな笑みをアルフィンに向け。
長時間撮影の為、かなり引きつり気味になっていたアルフィンが、それまでにないくらいの満面の笑顔になったのだ!
もちろん、その笑顔を見てジョウも微笑み返す。
そして、吸い寄せられるように口付けを交わす二人。
ここ、本当はほっぺで良いからね。って言われてたんだが、まぁ流れと雰囲気でいっちゃったんだね(爆)
誓いのキスと同時に、上から色とりどりのバラの花びらが舞い降りてくる。
それらが壁になって、《晴れの日の各種撮影・衣装は、フォトスタジオ・デイジーへ♪》
と、店の情報が映し出される。
至って平凡に纏まったCM。
だが、配役のインパクトが大きい為、小細工はあえてない方が印象的にできるとの見解でこうなったらしい。

「ねぇ!シンプルだけど、素敵でしょう?最近は派手なのが主流っぽいんだけど、うちはあえてスタンダードに纏めてみたの!それに、一番欲しかった誓いのキスのドアップが撮れたしwwwww大収穫よぉぉぉぉ!」
『あ、あははははははははっ』
この場合、ジョウは冷や汗をかきながら耐えるしかない。
本当はカメラと共にこの映像を闇に葬りたい気持ちで一杯だ。
これが流れたら、即座に冷やかしのメッセージで“ミネルバ”のメッセージBOXがパンクしちまう。
しかし、もぉここまで来たら腹を括るしかない。と、一人悶々としていたのだが。
「あら、でもジョウのキスは素敵だったわよ?」
フォローのつもりか、アルフィンが多少照れた感じではあったが、ぽそりと呟く。
すかさず。
「いやー、あっしもあそこでジョウがマヂで行くとは思いませんでしたぜ。」
「おいらも驚いたよ!兄貴、相当いっちゃってもんね。アルフィンでさえお疲れモードになってたしなぁ。まぁ、無理ないよ。」
二人共、まったくフォローになっていないフォローをする。
「まぁ、そっちの感想は置いておいて。全体の流れを観て、どうだった?」
映像の出来より、違う方向に話題が逸れてたのでコレットが引き戻しに掛かる。
「ちよっと照れくさいけど、客観的に観ると良いと思うわ。ドレスはデザインは勿論だけど、着心地がとても良かったし、これは袖を通した人でないと分からないからこのCMを見て試着に来てくれたら間違いないわね。個人的にとても素敵に撮ってくれてるし。仰々しさがないのが好印象ね。」
「あっしも、こんなになってるとは思いませんでしたがね。まったく縁のないおっさんでも、ちょっと見入っちまいそうになりますぜ。」
「おいらも将来するなら、こんな式なら良いかなぁって思っちまったぜ!」
三人三様な答えが即座に出る。
ふむふむ。と、コレットは聞き入りながら
「で、ジョウはどうだったの?」
と、サラリと一番密やかに。話を振られないよう気配を殺していたジョウに。問答無用に質問する。
「うっ・・・。」
気配を殺そうが何をしようが、感想を求められる事は重々承知していたし、覚悟もしていた。それでもしかし!と、っとなってしまうのはしょうがないと思う!(ジョウ心の叫び)
皆がみな、注目している。見るな!ほっといてくれ!と、叫びたいのを必死に堪える。
「あー、えっと。。。」
こほんっ。。。と、控えめに咳払いをして自分を落ち着かせる。仕事の時はこんな思いをしなくて良いのに!と、チラリと思うがどうしようもない。
「うん。白いドレスが光に色々反射して綺麗だった。勿論、アルフィンにとても似合ってて言葉が出なかったくらいだ。」
おー。こういう方面の語彙が異常に少ないジョウにしては、的を獲た発言だ!多分、昨晩必死に考えたんだきっと(笑)
「全体の流れは皆が言うようにシンプルに纏まっていて、今時観るCMと比べるとかえって新鮮に映ってたと思う。シンプルな故のインパクトの強さだな。それに、ドレスへの注目度もなかなかに高く映っていたと思うぞ。」
おぉー。よもや、一番コメントを期待されていなかったジョウからちゃんとしたコメントが出たのに、一同が驚いた。酷い(爆)
「うん!ありがとう!これで、ちゃんとした出来になってたってのが証明された訳ね!嬉しいわ!早速明日からお店で流させてもらうわ!」
コレットが胸の前で手を組み、飛び上がらんまでに喜んだ。
「本当、あなたたちには感謝しているわ!うっかり絡んでくれたあの子達に感謝ね。あの件がなければ、こんなに素敵なCM撮れなかったんだもの!さあ!どんどん食べてちょうだい!お代わりも沢山用意してあるから!」
ロマーヌもニコニコである。
上機嫌な親子VS微妙なクラッシャーチーム。なんとも不思議な絵であった(笑)

翌日。アラミスからの緊急要請が入り、残りの休暇は返上。
ロマーヌ達に直接挨拶もなしに宇宙(そら)に上がった。
無事仕事を終えたのは二週間後。
幸い、仕事に支障の出るようなメッセージは一切届いていなかった。
「ねぇ、ジョウ。仕事も無事終わった事だし、ロマーヌにお詫びとお礼のメッセージしても良いかしら?」
ずっと気にしていたのだろう。アルフィンがそう言った途端。
アラミスからのコールサインが鳴る。
「こちら“ミネルバ”。」
すかさず、アルフィンが応答する。
メインスクリーンには、馴染みの顔。
「今回急に仕事をまわしてすまなかったな。ところで、仕事以外のメッセージをそちらに送るぞ。なんだか異常な件数だったからこちらで留め置いておいた。圧縮してあるから、そのように。それでは、また何かあったら頼む。以上だ。」
言いたいことを言うと、さっさと通信を切ってしまった。
それと同時に、メッセージBOXに大量のデータが送られてきた。
「ちょっと。。。これ、嫌な予感しかしないんだけど。」
冷や汗たらり。。。と流しながらアルフィンはジョウを見る。
「・・・ドンゴ。今送られてきたデータ、全部別メモリーに落としてメールBOXクリーンアップしとけ。」
はぁぁぁぁ。と、盛大な溜息を吐き、ぐったりと前のめりになる。
「きゃははははっ!了解っ。」
どんよりコクピット内で、景気が良いのはドンゴだけである(笑)
「・・・間違いありませんな。」
「うん。間違いないね。絶対にネットで流してたはずだから、誰か拾って芋づる式になるとは思ってたけど。」
あちゃー。。。と、タロスとリッキーは頭に手をやる。
「すまん。俺、報告書纏めるから先に上がる。後のシフトは適当に決めてくれ。」
若干顔色が悪くなったジョウは、スタコラと自室へと戻って行った。
「・・・気持ちは分かるけど、これは予想の範疇内だよなぁ。ねぇ、アルフィン。」
「まぁ、予想はしてたからね。私はそんなにダメージないわよ?さあ。じゃ、ジョウにコーヒー淹れるから、次いでにあんた達にも淹れて来て上げるわ!」
ジョウとは違い、若干浮かれ気味になっている。まぁ、不機嫌でいられるより良いので、そのまま放置!と、タロスとリッキーはアイコンタクト。
「ドンゴ!手伝って頂戴!」
「きゃはははは!マーカセテー!」
アルフィンの後を追い、ドンゴはコクピットから出て行った。

数分後、コーヒーを持ったドンゴだけが戻って来た。
「ん?アルフィンは兄貴んトコ?」
「ハイ。スマナイケド、先ニ当直シテテ頂戴。ダソウデス。」
「ま、そうだと思ってたさ。リッキー、飲んだら先に休んでて良いぞ。」
「あ、そう?ならお先に〜〜〜」
言うが早いか、コーヒーを一気飲みし、とっとと自室へと戻っていった。
「さーて。おやっさんの驚いた顔でも拝もうかね。」
タロスは、コレットからこっそりマスターのコピーを貰っていたのだ。
出来上がったCMではなく、途中経過までが入っているものを。
「息子の日頃なんざ早々見てないだろうから、さぞかし新鮮に映るだろうなぁ。これを肴に、酒飲める日を楽しみにしておこうかね。しかし。本番は何時なんだろうねぇ。」
気分は既に親父である。
今回はいろんな意味で、チームの見えなかったデリケートな面が見れて収穫だったとも思った。
「あの二人、デキてはいるんだろうけど、イマイチ押しがなぁ。ジョウが踏み込んでビシっ!とすれば早いんだろうが。もぅちょっとかな?」
まだまだ苦労が耐えそうにないタロスであった。

アルフィンはジョウの部屋をコールしていた。
「ジョウ、開けて。コーヒー持ってきたの。」
瞬間、シュッとドアがスライドして開く。
「ありがと。はい、コーヒー。色々とお疲れ様。」
流石に今回はジョウが大変な苦労をしたのはアルフィンも知っていた。
仕事に戻ったときの開放感は否が応でも見ていて分かったくらいだ。
「すまない。流石に今回はキツかったよ。」
コーヒーを一口すすり、ふぅっ。と一息つくジョウ。
「だが、あの時言った言葉は覚えてるからな。」
少し頬を赤らめてジョウが机に取り付けられている収納BOXから小さな小箱を出す。
「本番には一緒に買いに行こう。今回は二十歳の誕生日プレゼントって事で。遅くなっちまったがな。」
鼻の頭をポリポリかきながら、ぶっきらぼうにアルフィンに小箱を渡す。
「ジョウっ!」
感極まって、アルフィンはジョウに抱きつく。
それもそのはず。
誓いのキスの前に、ジョウはアルフィンの耳元で囁いてたのだ。
『予行演習はこれで済んだから、本番は段取り良く行こうぜ。』
なんとも風変わりではあるが、求婚には間違いない。だが、時期はまったく考えてないってのもジョウらしい。
でも、そんな事はかまわない。ちゃんとジョウが考えていてくれた。それだけで良い。アルフィンはそう思った。
「なぁ、開けてみてくれよ。」
ジョウはジョウで。折角頑張って買ったのだ。見て感想を貰いたい。そして出来れば気に入ってもらいたい。
「・・・まぁ!素敵!光の加減によって色が変わるのね!ジョウ、本当にありがとう!大事にするわっ!」
今はチタニウム手袋をしているので指に嵌める事は出来ないが、次の休暇には絶対につけるっ!と、箱に収まっている指輪を見ながら、大喜びするアルフィンを見ながら、式のときに浮かべたあの微笑をジョウ自身しているのに気付いていなかった。。

数日後。
別メモリーに落とした大量のメッセージの存在を忘れていたジョウ達は、後日、直接メッセージBOXに来た大量のメッセージの処理に、数日掛かった事は言うまでもなかろう。。。
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■筆者メッセージ
この作品は、アンソロ本用に提出されたものでしたが、横書き前提すぎたために、あけみにより却下されました。ということで、改めて横書き表示で公開です。             代筆あけみ
どんご(代理) ( 2014/03/25(火) 00:37 )