【13】
「丁度良かった。俺達に援護させてもらえますかい?」
「いいでしょ? クラッシャーは仲間の危機を最優先するものよ」
「俺ら猟銃借りてきた。兄貴のチームだと、顔が利いて楽勝だぜ」
3人が3人とも、一度期にダンに迫った。
「止めても無駄だろう」
タロス達は狂喜乱舞した。
「ただし、無益に森の生物を殺すのではないぞ」
「了解!」
3人の声がぴたりと合った。そしてすぐさま雑木林へと消えていく。
「相変わらず威勢のいい」
ダンは見送ったあと、アルフィンに視線を落とした。
「お前が自分を責めることはない」
「でも、あたしが全て……」
「それは思い上がりだ。ジョウにも果たすべきことがある。一人で抱えることではない」
アルフィンは見上げたまま、何も応えられなかった。
するとダンは優しい表情で言葉を続ける。
「……似ているな」
「え?」
「私の妻とだよ。彼女もよく、ジョウのことで自分を責めていた」
ダンはアルフィンを焚き火の方へと連れ出した。その場に並んで座り、ぽつりぽつりと過去を話した。それは恐らく、息子であるジョウにも話していないことだ。
気丈だったが身体はそれほど強くなかったユリア。ジョウを身ごもったことで民衆を湧かしたこと。ユリアにとってプレッシャーだったこと。そしてダンの場合は、ほとんど身重のユリアを気遣えなかった。時代はクラッシャーの発展期。創始者の一人として手を抜けない状況にいた。
そして、ジョウを産み落として半年後。ユリアの死。
「私が独り者でいれば、妻の人生はもっと長かったと思う」
「そんな……」
「今でも悔しく思う日もある。もう孫がいる年だがな。……ユリアは賢すぎる女性だった。私に我が儘を言うことを恐れていた。しかし、それは男の器量が狭いということでもある」
「けど分かります、お義母様の気持ち」
「しかし、ジョウの気持ちは分からんのだろう?」
一瞬言葉に詰まった。
少し置いて、ええ、とだけアルフィンは小さく呟いた。
「あれも私に似て、仕事以外にはとんと疎い。言われなければ分からないことが多すぎる。いや、男とは得てしてそういうものなのかもしれんが」
ダンが苦笑した。
その顔はやはり、ジョウと重なる。
「家族のことで、もっとジョウを困らせてやりなさい」
「そんな……」
アルフィンは首を横に振る。金髪がたなびくほどに。
「それはできません。お荷物みたいなこと、あたしには」
「荷物が重いほど、男は踏ん張りが利く」
「え……」
「荷物を背負ってこそ、初めて男は自分の足で歩き出せるのだよ。アルフィン、妻となる前は随分とジョウを振り回したらしいじゃないか」
「そ……それは、あの……」
青白かった頬に、うっすらと赤みがさした。
「思い出すだけでもいい。もっと自分に素直に、してもらいたいことは遠慮なく伝える。それに応えるか応えないかは、あれ次第だ」
アルフィンの瞳に、明かりが射した気がした。
実際、白々としていた空に、もう朝日が昇り出している。
「お義父様……」
「それで駄目な男だったら、お前から捨てるがいい。例え仕事ができたとしても、その程度の人間というだけだ」
アルフィンはくすっと笑う。
その顔は、赤いクラッシュジャケットをまとっていた頃の、時折見せる愛らしい表情だった。
「お義父様ったら。息子の嫁に、言っていいのかしらそんなこと」
「言わなければ分からないことが、世の中には多すぎる。私はユリアを亡くしてから、ようやく気づいた。お前達にはその失敗を繰り返して欲しくない」
ダンの重みのある言葉。
ジョウよりももっと、険しい時代を生き抜いた男の言葉だ。
「……有り難うございます。お義父様」